2010年7月13日火曜日

ウルトラ方向音痴

私の母・キヨコの方向感覚は尋常ではない。

20年ほど前の話になるが、
彼女の職場が北戸田に変わったため、
唐突に「自転車で通えるか試してみたい」と言い出した。

私は嫌な予感がしたが、
蕨市の自宅から自転車なら20分程度の距離なので
特に何も言わなかった。

ちなみに
私の家は母の実家で、
キヨコは蕨生まれの蕨育ち。
当時は四十代の後半だったが、
独身時代の一時期の除き、人生の大半を地元で過ごしている。

北戸田の新しいの職場は、
母が卒業した中学校から近い位置関係でもあった。

彼女が家を出て2時間が経過…。

私と父は無口になり、
「やっぱり…」と思いはじめていた。

ノンビリ往復したところで、
1時間程度で帰ってこられるはずなのだが…。

父が「探しに行こう」と言い出したが、
彼女の場合、予想もつかないところまで迷走する傾向があるから
一般の人より数倍広い捜索範囲になってしまう。
私が「行くだけ無駄だ」と止めた。

3時間が経過した頃、やっと自宅の電話が鳴った。

母親が笑いながら言った。
「ちょっと道に迷っちゃったみたい」
そんなことは重々承知している。
「近くに何が見える?」
私が事情聴取すると、
「電車…」と答えたので、
「その電車は地面を走っているか、上(高架)を走っているか?」
「上…」
これで京浜東北線の方向ではないことが分かった。

彼女の居場所は、
埼京線沿いか、武蔵野線沿いに限定された。

「ほかに何か見えるものは?」
「公園…」
行き過ぎて別所沼に着いてしまったのだろうか。
しかし、あの位置から電車は見えない。
…ということは、道満か。秋ヶ瀬か。
それとも完全な逆方向になるが戸田公園か。

うーん、
やっぱり凄い捜索範囲なってしまった。

「公園に何があるか?」
「池がある」
道満も秋ヶ瀬も戸田公園も水辺にあるが、
誰が見ても「池」ではなく「川」である。

すると、母がつぶやいた。
「あっ、風車がある」
「へっ、風車…?」
そんなものが埼玉界隈にあったか、暫く考えた。

浮間公園だ!

父は間違いないと判断し、車で救出に向かった。

ローカルな話題で分かりにくいとは思うが、
浮間公園は、
板橋区、つまり都内にあって北戸田とは完全に逆の方角で、
そこに辿り着くためには
川幅800メートルの荒川を渡らなければならない。

その段階で道が間違っていることに気がつかない母・キヨコには
常識的な方向感覚は通用しない。

この女の逸話は、
本が一冊書けるくらい存在する。

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