1週間ほど前の話になるが、
有名な作家や漫画家のセンセイ方が、
いわゆる「自炊」の業者を提訴したことが話題になった。
この「自炊」とは、
自分の所有する書籍をデジタル化する作業のことで、
業者は裁断やスキャンなどを代行している。
このニュースに接し、私はポカーンとしてしまった。
自分で買った本の始末まで
著作権を持つ人に支配されなくてはならないのか?
そもそも自炊は捨てる行為ではなく、
形を変えて保存する行為である。
いったい何がいけないのか、理解に苦しむ。
そう言えば、
私が就いているテレビ業界でもデジタル化の嵐を経験している。
我々の場合、
録画・録音の媒体が、磁気テープでは無くなりつつある。
私の会社では、
すでに完全テープレス化が実現していて、
社内の業務では磁気テープを使用していない。
映像の分野では、
地上波のテレビ局が出遅れたままのようだが、
音声の分野では、
録音・編集・加工のプロセスが
すべてコンピューター上で行われる。
しかし、
私が「小僧」(アシスタント)だった頃の音屋は、
まさに職人芸の世界だった。
音楽やナレーションを編集するためには、
6mmテープに録音して、
通称「デルマ」で編集点にマークをつけて
テープをハサミで切断。
もう一方の編集点との接合はスプライシングテープを用いる。
当時のプロには失敗は許されず、
「 undo 」なんて逃げ道は存在しない。
大きなロスタイムを生じる「やり直し」なんて
信用を失墜させる致命的な行為で、
皆が、日々、真剣勝負を繰り返していた。
細かく困難な仕事が速く正確に出来る。
それが「尊敬」に通じていた。
プロ野球の「珍プレー・好プレー」特番が、
2泊3日コースになるような時代だった。
この頃のシステムは、
多様な制作的なニーズに応えていくには旧式で、
抜本的な革命が必要になった。
最初は、テープのデジタル化が進んだが、
求められているのは音質などではなく、
作業そのものの効率アップだった。
勿論、
ベテランのエンジニアにとっては
自分のアドバンテージが消えてなくなってしまうような変化は
快いものではなかったと思うが、
皆が新しい時代に対応するために学び、
独自に知識と技術を身につけていった。
…当たり前のことだけど。
今、書籍の世界には
こうした動きが無いように映る。
思えば、
既存の「出版」という仕事そのものが
不要になっているのかも知れない。
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